僕の心のヤバイやつ

のりお先生の４作目の連載作で、ジャンルは青春初恋ラブコメ漫画。「僕ヤバ」と略される。英題は「THE DANGERS IN MY HEART.」。
2018年3月から週刊少年チャンピオンに4話分のみ掲載されたのち、Web漫画サイトのチャンピオンクロス¹⁾に移籍。現在も連載中である。単行本は１～１１巻まで刊行されている。基本的に火曜日更新の隔週連載となっている。
無料で公開されるWeb漫画という特性に、本編を補完するショートエピソード（いわゆるツイヤバ）をTwitter上で積極的にアップしていく戦略がマッチし、「尊死続出」「今一番応援したくなるラブコメ」とSNS上でも話題沸騰。一途な主人公ふたりの魅力や物語の盛り上がりも相まってのりお先生最大のヒット作となり、2023年にはアニメ化も果たした。

キャッチフレーズは「陽キャ美少女×陰キャ少年のニヤニヤ系青春格差ラブコメディ」。
中二病を煩う中学生の陰キャ男子・市川京太郎は、同級生の陽キャ美少女・山田杏奈にただならぬ暗い気持ちを抱いていた。光と影。あまりに眩しく、交わるはずなどなかったふたりの世界。しかしやがて市川の中に芽生えたほのかな想いは彼自身も揺り動かし、山田との距離も少しずつ縮まっていく。そして山田もまた…。変わりゆく季節の中で描かれる初恋の軌跡。今、ふたりの物語が静かに動き始める。

１話あたり8～14ページ前後で１話ごとにある程度話のオチがつけられることが多いが、基本的には続き物のストーリーとなっている。物語は主人公・市川京太郎の視点で描かれ、彼の心理描写は心の声という形で表現される一方で、ヒロイン・山田杏奈の心情が語られることはない。その代わり表情・台詞・仕草などの描写を丁寧に積み重ねていくことで、読者それぞれが彼女の心情・感情の変化を推し量ることが出来る作りとなっている。健気に相手を想い合い思わず応援したくなるふたりの恋模様。それを支える脇役たちの魅力、ここぞという場面でエモーショナルに描かれるシーン。決して派手でも劇的でもない展開でありながらこれだけ読者の心に響く物語に仕上がっているのは、作品世界を構成する様々な要素の持つ説得力の結実に他ならない。これほどの世界を構築して魅せるのりお先生のセンスと手腕に感服するばかりである。また多いとは言えないページ数の中でもそれを感じさせない濃密さ、何度も読み返したくなる緻密さと奥深さ。そして「ラブ」ばかりでなくさりげなく差し込まれる「コメ」も決しておざなりにしないあたりは、長らくショートギャグで腕を磨いてきたのりお先生の真骨頂と言えよう。
また山田杏奈のデザインに関しては徐々にブラッシュアップされており²⁾、作品の顔たるヒロインとして魅力ある存在となっている。

コミックスは全巻電子書籍化されている。電子版にも裏表紙や折り返し・次回予告等を含めて、紙の単行本にある要素はほぼ収録されているようである³⁾。ただ本作については３巻以降「特装版」が存在しており、その特典である付録類は紙の本でしか入手できない。特装版はその性質上追加で刷ることが難しいと思われ、入手するには市中に出回っている分か中古本を当たるしかなさそうである。またTwitterに投稿されたショートエピソード集（ツイヤバまとめ）がKindleで無料公開（全２巻）されている。